前回、前々回のコラムで、収益不動産の収益・費用計算について説明しました。
不動産会社等の査定では、「(収入 - 費用)÷ 利回り = 収益価格」と計算されることが多いかと思いますが、不動産鑑定評価においてはまだ別途必要な査定項目があります。会計上でいう「営業外収支」に該当する部分です。
不動産鑑定評価においては、「運営収益」から「運営費用」を控除することにより「運営純収益」を算出し、「運営純収益」に「①一時金(敷金等)の運用益」及び「②資本的支出(CAPEX)」を加減して「純収益」を算出し、「純収益」を還元利回りで還元することにより収益価格を試算します。
① 一時金の運用益:預かり金的性格を有する敷金や保証金等の運用益
② 資本的支出:建物・設備等の修理、改良のために支出した金額のうち建物・設備等の価値を高め、又はその耐久性を増すこととなると認められる部分に対応する支出
①は、賃借人より受領している退去時には返還すべき敷金や保証金等を、賃借人の入居期間中に運用し、その運用益を「運営純収益」に加算します。不動産会社の査定においては一切考慮されることはないと思いますし、運用利回りは不動産鑑定士自身が査定したうえで運用益を計上しますが、アベノミクス以降低金利が続いている状況下においては多額の運用益を計上することは出来ません。バブル期前後の金利が高かった時代において、「賃貸人に多額の敷金を預託する代わりに相場より低い賃料で入居する賃借人」が散見されたと思いますが、そのスキームはこの一時金の運用益と相関関係があります。
②は、CAPEX(Capital Expenditureの略)とも言いますが、大規模修繕工事をイメージすると分かりやすいかと思います。区分マンションの評価においては、管理組合に支払う修繕積立金をこの資本的支出に計上することも多いと思われます。建物・設備等の日常修繕、汚損・破損部分に対応する工事、原状回復費用等は「運営費用の修繕費」に計上しますが、「価値を高め、又はその耐久性を増すこととなる工事費用」は資本的支出に計上します。エンジニアリング・レポート記載の中長期修繕更新費用を参考に査定する方法、建物の再調達原価に料率を乗じて算定する方法等があります。
以上3回に分けて収益不動産の査定項目を説明しましたが、耳慣れない項目や普段の査定では使用しない項目もあるかと思いますので、疑問に思う方は不動産鑑定士に相談することをお勧めします。